消去法

 

目覚めて車にのりこみ、あの国道をぬけて川沿いの道から峠を越える。

そこではじめて、まともな(食える)朝日を浴びる。

 

それまでの50分間、体は少しずつ醒しているが、僕の意識は暗闇から抜け出せずにいる。

 

たしかに、峠を越えたあたりで何かがカチンと切り替わっていた。それを意識し始めたのはここ数年のことだ。

 

 

陽光か、それともただ時間が経過したからなのか。

 

理由はなんだ。僕を精神の暗闇から引きずり上げてくれるものはなんだ。

 

僕はそれにすがりたい。50分も待てない。

 

あるいはこうだ。

 

僕の深層心理には何かが巣食っていて、それが僕の思考にいたずらをしている?

 

巣食っているのはなんだ? 

 

僕はそのことを考えると神経質になる。

 

あるいは原因がわからないから考えまいとする。

 

だけど、休みの日には起こらない。仕事にいくときだけだ。それが出張でも同じ。自分だけが休む日も同じだ。

 

会社が蠢いていればそれは必ず起こる。

 

会社の何が原因だ?

 

ひとつひとつしらみつぶしに確認していってやろう。

 

どうやって確認しよう。そうだ、毎日ひとつ、あやしそうなものを爆破していこう。

 

当たり籤をひけば、あるひ突然、その何かを爆破した次の日から、僕は朝あの幼いころの朝日のまばゆい輝きのなかで金色に目覚めるだろう。

 

ひとつひとつ、確実に爆破していこう。それが何だったのか、ちゃんとわかるように。

 

絶対に、一度に二つ以上やってはいけない。

 

僕はその正体を知りたいんだ。そして、それがなぜ僕を苦しめていたのか、そのメカニズムをきちんと解明したい。

 

そうするまでは、完全には僕はその世界から足を洗えないから。

 

明日がスタートだ。

 

そして僕は周到に計画してひとつづつ静かに、だけどあとかたもなく、関係のありそうなものを片っ端から消し去っていく。

 

最後には、会社の建物を吹っ飛ばした。

 

それでも完全には霧が消え去らない。

 

最後に僕は自分自身を消し去る。

 

ただしそれはきちんと順序だてられて形式的に済まされなければならない。

突然おこってはいけない。

 

偶発的でもないし、発作的でもない。

 

理性と落ち着きを持ってそれを実行するからこそ、その効果がきちんと確認できる。

 

だから僕は、実行前の一時間で様々なことを考えることにした。

 

たとえば何かを思い出す。昔のことを思い出す。

 

たとえば時間があったら考えようと思っていたことを考える。

 

そしてあの日のことを思い出す。

朝日は黄金色に輝いて、舞い上がる片栗粉にむせる。

物置の裏手の、削り取った山に面した日の当たらない場所で吸いこんだ、生暖かい生命の息遣いとむ舌苔を思い出す。

 

一歩入れば、私をすべての悪いものから守る、その古いが手入れされてきた愛しき我が家を思い出す。

 

触るとぽろぽろと崩れていく感想した青いクレヨンのような淡い恋を思い出す。

 

何もかもを思い出す。

 

とても心地よい気持ちだ。その後のステップがきちんと決まっているから。

 

そして僕は僕自身を爆破する。確実に。

 

その瞬間までの一時間、僕は自分自身に誓って、えっちゃんとよっちゃんに誓って幸せだった。

 

なにもかも与えられ、そして忌避すべきもの - それは今になって見れば自分自身だったのかもしれない - から逃れることができたのだから。

 

 

僕は自分自身への説明責任を果たしてから起爆装置を押し、あちら側へと渡った。